アングラーの手で川を魚を育てる U’s+Futures ヤマメ発眼卵放流 in 新潟県魚野川 Fishman@西村均

今回は、新潟県有数のトラウトフィールドとして知られる、魚野川水系で行われたヤマメの発眼卵放流イベントに注目します。そのレポートをしてくれるのはFishmanでテスターとして活躍する西村均さん。どのような取り組みで、魚野川の魚たちが守られているのか、皆さんにぜひ知ってほしいですね! では、西村さんよろしくおねがいします。

●文:ルアーマガジンリバー編集部

2024 シーバス特集

川を愛する多くの人で行われる発眼卵放流活動

こんにちは、Fishmanのドクトルニシニシです。

いつもお世話になっているアベイルさんの直営店、フィッシングチロルで展示会を初開催してきました。

感染拡大予防の為に導入したフェイスマスクは来店者にバカ受けでしたが、いやこれすげーいいじゃん、運転超楽でした(笑)。

西村均(にしむら・ひとし)
ベイトロッド専門メーカー「Fishman」のテスターを務める。新潟県をホームに小渓流から海のルアー釣りまで幅広く楽しむマルチアングラー。人気サイトfimoでブログも執筆中。ドクトル・ニシニシの愛称で変な格好もするが、釣りのテクニックには定評あり。

さて、そのチロルから少し坂を上ったところにある、シマノ&アイマのテスターで、ペンション『アンティーズハウス』のマスターである、船沢京介さんが主催するフィールド保全活動、U’s +Futures が開催した、魚野川ヤマメ発眼卵放流(8回目)に参加してきました。

僕がこの行事に参加するのは7回目、7年もこの取り組みに関わってきました。

かつて新潟福島7.13水害により壊滅的被害を被った魚野川。その後、周辺住民の安全のみを考えた治水工事が続き、街は安全に近づいたけど、護岸護岸護岸、川床は平らに、川は真っすぐに、と、そこに住む生態系に対しての考慮が足りなかったのか、トラウトの聖地と呼ばれた川は、すっかりそのなりを潜めてしまいました。

このまま自然回復を待っていても、かつての豊かな河は戻らない。

ならば、それを危惧するアングラーの手で川を育てよう、未来へ繋げよう、そう思って立ち上がったのです。

今回は前日にそのペンションに集まった方向けに、徳島大学から生態系管理学の専門家、河口准教授にお越しいただき勉強会も行いました。 吉野川、そしてアラスカの河川を例に出し、どういった取り組みで自然を保護してきたかを学ばせて頂きました。

吉野川の河川改修と、その後再び沢山の魚を取り戻すまでの経緯、釣りをライセンス制にし、ガイドが釣獲量を記録、申請し、漁業関係者と情報共有している諸外国のフィールド保護。

貴重な講義、ありがとうございました。

そしてこの為に、アクリル板や空気清浄機を設置してくれた船沢さんの努力にも頭が下がります。

明けて日曜。

昨年はコロナ渦で少人数での作業でした。そして今年は、ワクチン2回接種済みの方限定。

人数、また少ないだろうか…と危惧していましたが……。

予想以上! 60人を超える大人数が参加してくれました。

総勢60名以上!

これにはびっくりしました。

今、川の抱える問題を危惧し、出来る事からやり始めよう、そう思ってくれるアングラーがこんなに増えた、そのことに感動しました。

釣り方、餌だろうがルアーだろうがフライだろうが漁業者だろうが、そんな垣根なんて本当は無かったんだ、そう思える人数でした。主催者の1人、奥只見の魚を育てる会の市村晃さんも主催の1人。

BQイッチーこと市村晃さん。自らをB級と名乗っているが、魚のことを愛しさまざまな活動に参加するA級アングラーなのであります。

有名フライフィッシャーのイッチーは、放流のエキスパート。

毎年お世話になっています。

今年は漁協さんのご厚意で、購入した発眼卵だけでなく、12500粒の寄付を頂きました。なんと例年の倍の数!

孵化間近。卵に目が見えます。

これが全部孵化し、育つ!

……という事はないのです。

孵化した稚魚は、他の魚や鳥に食べられてしまう事もあり、釣獲出来るサイズ、約15cm以上まで育つ確率は写真の通り。それでも発眼卵放流は、稚魚放流より多くの魚が残ります。

すべての放流卵が孵化して、育つわけではない。

川に馴染む魚たちを育てること。発眼卵放流に見る可能性

成魚放流は自然に馴染めなければ産卵はできない。

この、産卵床を自分たちで作るという大変な作業は、今すぐ釣れる魚を入れるのではなく、未来に残る、繁殖力を持った魚を育てると言う事なのです。

総勢60人強がそれぞれの作業にかかります。

産卵床を作るには、流れが当たるポイントを選定し、その川床を平らにならし、水が通るように砂利をひく。

一方で、その砂利を大きさ別に選別し集める、ほとんど土木作業のような重労働もあるのです。

こんな大変な作業ですが、誰もがにこやかに頑張っているのです。

豊かな未来を夢見て、大の大人が楽しそうに作業する。こんな事、なかなかありませんよね。

11月の湯沢、魚野川。その冷たさはご想像の通りですが、誰もがそんな事は口に出しません。シーズンオフにまたこうして、魚に関わるために川に立てる。

それが嬉しくてたまらないから。

箱眼鏡で水中を見て、ここだ、と言う箇所を選定し、川床をならし、砂利をひき、卵設置の為にパイプを立てる。

ここまで来たら、今度は女性の出番です。命を未来に繋げるのはいつの世も女性の役目です。

Fishmanカタログのニシニシ写真をいつも撮影してくれている彼は、今年ご結婚され、お嫁さんは初めて川に浸かりました。

2人の共同作業で、ヤマメがいっぱい増える事でしょう。参加2度目のルアーアングラーの奥様は2度目の参加。紫外線に弱い卵を優しく守っているのが印象的でした。

何度も参加されているプロ奥様は手慣れた手つきです。我が子を育てるような優しさを感じました。川床をならし、砂利を集め、卵を置く。

冷たい川で、バケツリレーでそれを誰ともなく協力しながら作業します。今回最年少は小学生の女の子! 小さな手で、優しく卵を置いていました。

彼女がもうちょっと大きくなった頃、飛び跳ねる魚を見にきて欲しい、そう切に願います。今回はルアマガプラス、内外出版社様以外にもメディアで展開されます。

釣り雑誌も、ただ釣り方や釣果を載せるだけでなく、こういった活動を取り上げて頂けるようになりました。いつかどこかでこの記事を読んだら、少しでも良いから興味を持って頂ければ幸いです。

もう眼がキョロキョロ動いている卵を見ていると、我が子のように思えてきて、来年この流域での釣りがしづらくなる(笑)事実、参加した7年でここにはヤマメが本当に増えたと感じます。

最近は、フックを外したルアーで、追ってくる子ヤマメを眺めるだけで、なんだか満足してしまったりするのです。

ヤマメたち、この冬を乗り越えて、来年、再来年、いやもっと先の未来まで、豊かな河のシンボルになっておくれ。

いつか、この活動に参加している方の子供、孫の世代までも楽しませて欲しい。

さぁ、全ての放流が終わればお疲れ様会の開始です。

魚沼ホルモン! 魚野川で育ったサーモンステーキ! キノコ汁が食べ放題! みんな、これを食べて食べて、今期のトラウトシーズンが終わったと感じるのです。

後ろを見やれば、いっぱいに広がる紅葉。

突き抜ける青空。

こうして、ヤマメ発眼卵放流を完了して、ニシニシの2021年トラウトシーズンが完了するのです。釣り人の手で魚を育てる、フィールドを守る。決して楽じゃないし、回り道も無いし終わりもない。

だけど、今自分たちが楽しければ良いって考えではいけないと思います。かつて北米に研修に行ってた時、地元のネイティブの方から、こんな言葉を聞きました。

『今ある自然は祖先から受け継いだのではない、未来の子孫から借りているだけだ』

だからニシニシは来年も、再来年も、この活動を続けていくのです。

写真提供:参加者一同

参加された皆様、本当にお疲れ様でした!

ありがとうございました。


※本記事は”ルアーマガジンリバー”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。

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