【バス釣りセオリー検証24】大いなる春の誤解【北大祐×木村建太】



Webメディアや雑誌、テレビやYouTubeなどでまことしやかに語られてきた「バス釣りのセオリー」。それを学ぶことでレベルアップできるはずが、実は逆効果になっているのかもしれない。まずは、バスアングラーなら誰もが見聞きしたことのあるフレーズを検証していこう。そんな目的で全32回+αの様々なバス釣りにまつわる「セオリー」の検証を、北大祐さんと木村建太さんの対談で贈る新刊ムック『僕たちのバスフィッシングに、セオリーは必要ない。』。

今回は「検証24 大いなる春の誤解」。シーズナルの中でもバスの産卵に関わる重要なシーズン、春。春バスの定説の検証を本書から全文まるごとお届けします!

北大祐×木村建太、おふたりのプロフィール

【Profile】

北大祐(きた・だいすけ)

1982年石川県出身。ヒューマンフィッシングカレッジ卒業後、プロトーナメントの道へ。フィネス全盛期にありながら、クランクベイトやスピナーベイトなどハードベイトを多用するスタイルに活路を見出し、以降、国内最高峰カテゴリーJBトップ50において通算4勝、年間優勝2回、Basserオールスタークラシック3勝など、日本の主要タイトルを総なめにする。2018年に自身のブランド『ペイフォワード』を設立、ワンエイトやKITなどをリリース。2019年からはバスフィッシングのさらなる深奥を求めてアメリカでのトーナメント活動を本格化させている。

【Profile】

木村建太(きむら・けんた)

1982年京都府出身。10代からJBトーナメントに参戦するが、トップカテゴリー昇格を前にして渡米、FLWのコアングラーとしてエントリー(2005~2007年)。帰国後は琵琶湖でのガイド業やビワコオープン参戦などで注目を浴び、フロッグやパンチングなどのパワーゲームがトレードマークに。2013年からはバスマスターオープンにフル参戦、2021年にエリートシリーズ昇格を果たした。スリザークやバスターク、イヴォーク・シリーズなどルアーデザイナーとしても高く評価されている。2021年より、自身のプライベートロッドブランド『ウルフダウン』を始動。

検証01「シーズナルパターンがバス釣りの基礎」なのか? を深堀りしてみる

――この本(『僕たちのバスフィッシングに、セオリーは必要ない。』)の冒頭(証01)で「シーズナルパターンと呼べるのは産卵行動だけ」という話がありました。そのあたりを深堀りさせてください。たとえば「早春は越冬ディープに隣接したエリアから釣れ始める」というセオリー。魚の行動としては合理的な気がしますし、とてもイメージしやすいのですが。

「じゃあ、それまでの時期はすべてのバスが『越冬ディープ』にいたのか、って話ですよ。小バスはそうかもしれない。でもそれ以外は、房総のリザーバーならドシャローにも残ってるだろうし、琵琶湖の北なら水深10mの漁礁にもデカい魚がいる。同じ冬でもフィールドによってまったく別だから、その後の動きが違うのも当たり前」

「春はi字系」「春はシャロークランク」など両極端なセオリーが出てくるのは、フィールドやエリアごとに捕食対象が異なるからだろう。

木村「『早春は……』というくくりで何か言えるとしたら、僕は完全に『エサ』をベースに考えてますね。表層の水が温まって、そのレンジにエサが大量に集まるから、バスもそこへ入ってくる。甲殻類が動き始めたり、ワカサギが産卵のために接岸したり」

――エサの種類で、バスの行動やポジションも変わってくると。

木村「おおむねシャローですけどね。特に日本でもアメリカでも、春に雪解け水が入ったりして増水するフィールドほど、シャローの破壊力が大きい」

――その流れでいうと、いわゆる『セカンダリーポイント(※イラスト参照)』には、どのタイミングで魚が入ってくるんでしょう?

スポーニングエリアへ向かう前段階の魚が待機する、とされるのが「セカンダリーポイント」。実際にこのようなポジションを取るフィールドもあるだろうが、単にエサが多いなど別の理由でこのスポットに魚が溜まっている可能性も。「仮にセカンダリーポイントがあるとして、その1歩手前のポジションは見つけているのか。さらに手前は? そこまで把握しないと有効活用できないと思う(北)」

木村「そのワード自体、たいして意味をなしていない気が。アメリカでもそういう表現をする人はいるんですよ。でも実際に『スポーニングするワンドの入り口の岬に待機』みたいな動きをしているのかどうか。そういうスポットに入るタイミングがあるとしても、シャローほどのパワーを感じたことはないですね」

「セカンダリーポイントって、要するに『冬のディープと春のスポーニングシャローの中間地点(ミドルレンジ)』をイメージして語られるわけですよね。ところがキムケンが言ったように、実際には冬のポジションからミドルレンジをすっ飛ばして、いきなりエサを食いにドシャローへ差してきたりする。その後、ミドルレンジへ下がって産卵するケースもあるわけですよ。琵琶湖南湖なら沖の水深3~4mでも余裕でネスト(産卵床あるいはスポーニングベッドとも言う)ができますし」

図式的に考えると「バスは水温上昇につれてディープから浅いほうへ移動する」とイメージしがちだが、これが絶対的なセオリーではない。釣り人の認識がフィールドの実態とズレてしまうと魚の動きを見誤る。

――こんがらがってきました(汗)。

「スポーニングの前段階で位置するスポットが『セカンダリー』なら、この場合はドシャローが『セカンダリー』と呼ばれてしかるべきでしょう」

――はい。

「なかなかそういう発想が出てこないのは、魚が『ディープ→ミドル→シャロー』の順に動くはずだと、釣り人が思い込んでいるせいでは?」

――湖によっては『ディープ→シャロー→ミドル』だったり、『ディープ→ディープ→シャロー』かもしれないと……。

木村「3月のシャロー爆発を見逃して、4月にようやくミドルで釣れて「セカンダリーだ!」と思い込むケース、あると思いますね」

オスが先か、メスが先か

――続いて、産卵に至るプロセスについて。「オスがまずシャローに上がり、ネストを準備しながらメスを待つ。やがて大潮のタイミングでメスが差してきて、ペアになり、卵を産む」。細かな差異はあると思いますが、おおむねこのような流れでスポーニングが始まる、というのがセオリーとされています。

木村「まずはココ、『オスが先に差してメスを待つ』がおかしい」

――北さんは?

「同意見です。スポーニングエリアに入ってくる手前の段階でペアリングが完了して、一緒に差してくることが多いと思う」

木村「そう。しかもそういうヤツらはイチャイチャしまくってて食わない。例年、ネストができはじめる直前にそういうタイミングがあるんですよ。魚探を見ていると明らかにバスだらけなのに、釣れない」

「オスがひとりで危険を冒してシャローに産卵場所を探しにいく、というのはレアケースだと思います。そういう個体もいるでしょうけど」

木村「なので、シャローで『オスがネスト張ってるな』と釣り人が気づくようになった時点で、実はメスも近くにいることが多い。一見ペアリングしているように見えなくても」

「第一、実際に産卵床を作るのはオスではないですからね。メスが尻尾でボトムを掘るから、ヒレの下側が欠けていることが多いわけで」

木村「厳密に考えれば、オスとメスが1対1ではないかもしれません。メスが何尾かまとめて連れてきたり、相手にされなかったちっちゃいオスが割り込んできたり。1度産卵したあと、メスが別のオスを探して二股三股かけてる場合も多いだろうし」

――ネストに入ったあとの行動は?

「釣り人に邪魔されない限りは、それほど時間を空けずにすぐ産みたがってると思いますよ」

子育て中は腹が減る?

――「プリのメスは気難しい」だとか、「ボトムに放置したほうが食う」などなど、釣りやすさやアプローチについても諸説ありますよね。

「プリスポーンのメスは神経質」というセオリーは正解?「それって要するにデカい魚のことですよね? 産卵に関係なく1年中神経質だと思います。神経質だからルアーに騙されづらくて大きくなれた(北)」。「浅いレンジにいるから過敏にそう見えるだけで、普段も見えないところで同じ行動をとってるはず(木村)」

木村1番釣りやすいのは、ネストに入ってからしばらく時間が経って、日焼けして背中が黒くなったヤツ

「そうですね。逆に産卵直前でウネウネしているヤツなんかは、どれだけ粘ってもルアーに反応しないことがほとんど」

――ネストに入ってから、というのは、すでに産卵を終えた個体ということですか。

木村「そう、要するに卵を守っている状態の魚です」

「もちろん、それを釣るべきかどうかは別として『釣りやすさ』だけを考えるなら、という前提の話ですよ」

――卵や生まれたばかりのフライ(稚魚)を守っているのは、基本的にオスですよね。「子孫を守るために攻撃的になるから、威嚇バイトを誘発しやすい」というヤツですか?

北「いろいろ誤解があるような(笑)」

木村「まず『オスだけが守る』わけではない。産卵後のメスもすぐに立ち去るわけではなくて、実はネストに残っていることがけっこうあります。なぜ釣り人がそれに気づきにくいかというと、デカいメスほど、産卵床の近くに隠れる場所をキープしてるから」

「ボートが近づいてきたらそっちにスッと消えるから『オスだけがネストを守ってる』ように見えるんですよね」

木村「大きな桟橋の横なんかでよくデカバスのネストを見かけるのは、そういう理由です」

――もしやそれが「アフターのメスはストラクチャーに浮く」というセオリーの正体!?

木村「その可能性はあります。メスが浮きたいんじゃなくて、あなたのボートがそこにいるから隠れてるだけ(笑)。そんなわけでこの時期、アメリカ人はよくプッシュポールを用意して、エレキを踏まずに静かに近づいてメスが逃げないようにネストを撃ったりしてますね」

――警戒心は高そうですが、なぜ「釣りやすい」のでしょうか。

木村「すごくシンプルな理由で、腹を空かしているから。ネスト周辺から動けないのでエサにありつけない時間が長くなるでしょ。そのせいか、デカい魚ほどエサが多いところで産卵する傾向があります。アプローチ方法はいろいろあると思います。サイトならヤマセンコーのワッキーがアメリカの定番ですけど、濁っていてネストが見えないフィールドだと、トップで出したほうが手っ取り早い」

冬から春への移行期、まだ産卵行動に入る前段階では『エサ』が鍵を握ることが多い。

――トップに威嚇バイト……ではなく、食欲で反応していると。

「『威嚇バイト』という表現をたまに聞きますけど、実際に威嚇してるのは限られたケースだと思いますよ。縄張り意識の強いオスぐらいじゃないですか。トップに「ガバッ!」と激しく出ると、なんとなく威嚇してるように見えるのかもしれない」

木村「威嚇なら体当たりして弾き飛ばすだけでよさそうでしょ。ところがこの時期のトップって、たいていガッツリ食ってくるんですよ」

「ぜったい逃さん! って感じで押さえ込んでくる。有名な例でいうと、フロリダのダブルプロップ系のパターンがそうです」

――あれこそ威嚇バイトの代表格かと思ってました。

木村「完全にエサっすね。デビルズホースとかギル系のダブルプロップが定番なのは、強さやスピードがあのフィールドに合っているんだと思う。ペンシルだと移動が速すぎて追えないし」



アフタースポーンと『回復系』

――一般的なセオリーでは、おふたりの話とはちょっと違って、「アフタースポーンの魚は浮く。だからトップに反応しやすい」とされることが多いと思います。

「そのフレーズだけ覚えてしまって『トップに出た、アフターだな!』と、決めつけているのでは。実際にはネストの魚もバンバン水面を割ってますよ。たとえば琵琶湖でポッパーがハマってるとき、釣れてるのはネストか、フライを守ってるオス。両方が混じっている」

雪景色の琵琶湖西岸・比良山地。春になり、雪解け水が入って増水したシャローはプランクトン豊富な濁りが発生しやすく、ベイトフィッシュやバスを強く引きつける。「ただ、最近は全国的に春のシャローがパワーダウンしている印象があります(木村)」

木村「ネストの魚は別に浮いてないけど、フライは水面付近にいるからオスも当然、上を意識している。どちらもポッパーに出ます」

――トップの話が続きましたが、「スポーニング中はボトム放置系が効く」という真逆のセオリーもありませんか。

木村「ボトム……? それはまったくないかな。同じ時期にエビやザリガニの甲殻類が出てくるから、そういう意味でボトムの釣りが効きやすくなったりはするかも」

「それは『ネストにワームを置いておけば食う』をふわっと表現しているだけではないかと……(笑)」

木村「それやな。だいたい『アフターはスローに』『ロングシェイクで』みたいなセオリーは、どれもネスト絡みの釣りの話でしょ。もしくはブルーギルのネストを狙うギル食いのパターン

「5月以降になると、スポーニングといってもいろんな段階の個体が混じって釣れます。たとえば霞ヶ浦だとテナガエビがシャローで湧くタイミングともリンクします。だからトップで釣れたとしても、エビにフィーディングしている魚なのか、ネストなのか、それともフライガードなのか判別しづらい。『アフターだからトップに出た』と断定はできないですよね」

――『回復系』というフレーズはどう捉えていますか? 産卵後の痩せた状態から、徐々に体力が戻ったバスを指す言葉ですが、「回復系はアグレッシブにエサを追う」というイメージで語られます。

木村「アグレッシブというのが『ルアーに反応しやすい』という意味なら、たぶんそれはまだ回復していない状態の『お疲れ系』。だからこそ、必死こいてエサを獲ろうとするんで」

「そういう魚だから、ノーシンカーみたいにスローで、いかにも偽物っぽいルアーでも食っちゃうんですよ。完全に回復してしまったら逆に難しくなる」

木村「この回復するまでの時期が、バスが1年でいちばんアホになるシーズンでしょうね」

――オスメス問わず?

「どちらも。ただしメスのほうが回復が速いから、イージーな期間は短い傾向にあります」

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『僕たちのバスフィッシングに、セオリーは必要ない』発売情報

過去の常識は非常識!? バス釣り脳をアップデートせよ!!

北プロと木村プロは、なぜセオリーの逆を伝えようとするのか。かつてセオリーとされた事柄のなかに、たくさんの誤解が混じっていたのではないか?
トーナメントプロとして活躍の場を本場アメリカへ移し、最先端を走り続ける北大祐と木村建太。次世代筆頭と言うべき2人が、半世紀にわたり日本で積み上げられたバス釣りのセオリーとウェブ上に溢れる釣果に結びつかない情報をバッサリと切り捨て、アップデートされた「現代のバスフィッシング様式」を語りつくす。

●発売日:2022年3月17日
●定価:1,980円(税込)