渓流ミノー『D-コンタクト』20周年! 平本仁さんが語る開発秘話

「D-コンタクト(スミス)」。ヘビーシンキングという渓流で最も使われているであろうミノータイプの基礎を作り上げたこのルアーは、今でこそ多くのトラウトアングラーに愛されるようになったが、リリースされたタイミングでは「渓流では使えないんじゃない?」と『異端児扱い』されていたこともあったというから驚きだ。開発を手掛けた平本仁さんに、製作当時を振り返っていただいた。

●文:ルアーマガジン・リバー編集部

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平本仁さんのプロフィール

平本仁(ひらもと・ひとし)

2000年頃からヘビーシンキングの構想を頭の中に思い描き、形にした「D-コンタクト」の生みの親。東北を好み、渓流魚の中ではとくにヤマメ。近年、身近なフィールドにも目を向け、関東近郊河川の独自開拓にも力を入れている。

「ボトムから少し上の20cm前後のところ、そこを流したかった」

シンキングミノーじゃないもっと沈むミノーが欲しい

「D-コンタクト」は、2003年のデビューから今年で20年を迎える。このルアーを開発したのは、スミスの平本仁さんだ。渓流釣りはスプーンの釣りから入り、90年代に入ると、平本さんもミノーの釣りを楽しむようになった、当時はフローティングミノーがメインだったが、90年代後半にはアップストリームの釣りにも対応可能なシンキングミノーが東北地方で密かに人気を博していたという。

東北とヤマメを愛する車中泊アングラー

全国各地の渓流の中でも、とくに好きなのは東北地方。平本さんは車中泊してなるべく長い時間を過ごしていたのが印象的だった。

平本「ソルト用の小型シンキングミノー『ウェイビー』ですね。よく飛ぶし、トゥイッチにもしっかりついてくる。自分が入れるロッドアクションで魚を誘える釣り。その躍動感が本当に楽しく感じていたんだ」

しかしながら、長らくウェイビーを使い込むうちに、攻められない微妙な流れがあることを感じ取ったという。

平本「もちろん流れにもよるけど、ざっくり言ってしまうとボトムから少しだけ上の20cm前後のところ。そこを流したかった。ウェイビーを使っていても落ちるまでに時間がかかるし、いいレンジを流そうと思うと自分に近いところまでルアーが流れてきているということが多かった」

コンマ何秒の間に泳ぎの変化を

深いレンジをキープしながら動き続ける

フローティングミノーをトゥイッチングで動かした場合、トゥイッチ後、浮力によって瞬間的に止まり浮上する。この小さなレンジの変化で口を使わなくなる魚は多いという。これがヘビーシンキングミノーの場合は、連続トゥイッチが過剰な沈下を防ぎ、レンジキープのしやすさにつながる。この『コンマ何秒』の間の「泳ぎの変化」をいかに作り出すことができるか、その部分に平本さんは徹底的にこだわった。

レーンもレンジも意外とシビアな渓流のアップストリーム。平本さんは『もっと沈むミノー』が欲しいと考え、ウェイビーに重りを貼った。それでも思い通りのレンジを通すことができなかった。さらに重たいミノーを……と、このような平本さんの実体験を通して生まれたのが「D-コンタクト」である。

D-コンタクト50(スミス)

ヘビーシンキングのスタンダード

2003年のデビューから今年で20年。よく飛び、よく釣れる、今や渓流ルアーフィッシングに欠かせない存在となったヘビーシンキングミノーのスタンダード。開発の段階では「もっと重たいルアーがほしい」と、名作・ウェイビーにオモリを貼り付けてテストを行っていたという。

項目スペック
全長50mm
ウエイト4.5g
タイプヘビーシンキング
価格1,650円(税別)

ウエイトに採用したのは比重18のタングステンウエイト。ボディの総重量は4.5g。『驚異のディスタンス力(distance)』『ディープ力(deep)』『ディレクション力(direction)』という3つの「D」をキャッチコピーにリリースされることとなるのだが、もちろん理想のセッティングの調整は容易ではなく、試行錯誤があった。

リップの角度、中に入れるウエイトの重さ、ウエイトの位置、形状など、いくつものプロトモデルでテストを繰り返し、渓流に何度も足を運んだ。

その途中で、Dコンが誇る優れた性能『慣性スライド』も生まれ「重たいミノーは動かない、釣れない」とも言われた時代に、ムーブメントを巻き起こすこととなる。

平本さんが考える「慣性スライド」

後方ウエイトが生んだボディを押し出す動き

平本さんのこだわりが性能となって結実した「慣性スライド」。D-コンタクトは後方にウエイトが集中する後方重心設計であり、これがトゥイッチ後にスライドアクションを起こすための重要なポイントになる。前方重心のヘビーシンキングミノーを引くと、素直に前に進むだけで「スライドアクション」は発生しない。しかし、重心が後ろにある場合、重さがボディを押し出すように力が働き、バランスを崩しながら前進。この時に起こるのが「慣性スライド」。トゥイッチ後、滑るように泳ぐのが特徴だ。

幅広く深く、拡大していく開発のアイデア

「D-コンタクト」は釣れる。でも、さらに幅広いシチュエーションに対応するために、平本さんは「D」シリーズを拡充し続けてきた。

平本「D-コンパクトなんかは、現在のパイロットルアーとしてDコンより出番が多かったり、D-ダイレクトのような限定的な使い方をするものもあったり、たくさんルアーを作ってきたんだね~(笑)」

自分のアイデアを形にするとき、とことんまで追求し、モノづくりを続けてきた。

平本「ここで紹介しているもの以外にも廃盤になったものもあるんだけど、思い出深いのが『D-コンタクト秋』。まさに秋を意識したラインナップで、刺激的でコントラストの効いた色の組み合わせを反映して発売したんだけど、リリース時期が6月だったんだよね。正直、渓流の禁漁が全国的に9月いっぱいまでだから、強気な販売方法だったと思う」

サンプルの製作を開始したのが2005年秋。カラーだけでなく、ウエイト調整や、サイレント性を高めるなど新たなセッティングを目指し、完成したのが2006年5月。オリジナルの50mmと63mmに採用され、発売以降はすぐに完売した。『D-コンタクト』の人気もさることながら、オリジナルと比べて10cm深場をトレースでき、慣性スライドの領域の幅も拡大させたところにも、当時注目が集まった。

性能面だけでなくネーミングにもこだわった

「DDパニッシュ」でボトムを叩く釣りをしたり、「ウェイビー」にウエイトを貼ったりと試行錯誤の末に慣性した名作「D-コンタクト」。ネーミングの発音の心地よさにも相当こだわったそう。性能面のみならず、これも多くのアングラーに愛される要素のひとつになっているのかもしれない。

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