とにかくとことん突き詰める系のマルチエキスパート、横島勝さん。釣り場への通い込みもハンパじゃないし…と何か怖い話を!とリクエストしたところ、本気で怖い原稿を送って頂きました…。でもシャレにならないので、とりあえずビビって1ヵ月原稿を寝かせてみました。…が、不穏な事件は編集部では起きず。ということで恐る恐るルアマガプラスに掲載してみます。
●文:ルアマガプラス編集部
情報提供者は横島勝さん
とにかく書きたくなかったトピックNo.1
先日めでたく20年目を迎え31万キロに達した愛車、ランパブ号(いつもお酒が積んであるランクル)、またの名をモビ-ディック号(オフホワイト色 100系 1HD)の電気系の整備をしているところに、K編集長から電話が入った。
「もしもし、横島さん、水辺で怖い体験したことありませんか? もしあれば、一筆お願いできませんかね?」
出来ればこれは避けて通りたかった。しかし、偉い編集長からの指令である。
「Sir Yes Sir!!」
即答で書くことに同意。偉い人からの指令には、返事は「はい!」と「Sir Yes Sir!!」。これしか選択肢はないのだ。
東京都奥多摩湖、南側は完全な山道
皆さんご存知の俺のライフワーク、奥多摩湖の見張り番業務であるが、奥多摩湖というのは北岸に、国道411号が通っている。
しかし、ダムサイトから南の湖岸線、約12.5キロは未舗装の山道だ。場所によっては道幅2mも無い登山道のようなもので、平日などはほとんど人に会う事もない。大雨の後などは、がけ崩れや土砂崩れで通行に支障をきたすような道である。
もちろん街灯などは1つもなく、夜になれば真っ暗闇、夜行性の動物の視力を持っていないと、歩けるような場所ではない事をまずは記憶しておいて欲しい。
では、まずこの話からしよう。
かれこれ20年も前になるだろうか? 2連休の初日、釣りで朝1番から南岸へ入るも魚の姿は見えるが、全く釣れず。山道12.5キロを、崖の上り下りをやりながら釣り歩き、14:00過ぎに引き返す。
…時間を考えるとダムサイトに還るのは、真っ暗だろうなぁ~。まあ、懐中電灯は持っているし真っ暗になっても、歩くスピ-ドは遅くなるけれど大丈夫だろう…。などと思いながらも、1匹も釣れない事に自分の能力の無さを悔し涙とともに呪いの言葉を自分にたたきつけ、それをパワーに変えて、来た山道を釣りながら戻るが、全く釣れない。
ラストチャンスに賭けて…
ここの岬、この時間なら間違いないだろう。太陽も傾きだし、いつも良い思いをさせてもらっている場所。ここでだめなら諦めよう。と、うす暗くなるまで頑張るも、全く鳴かず飛ばず。真っ暗になり、懐中電灯をつけ山道を敗残兵のごとく、歩いてダムサイトまで帰る。
今日も25キロか〜、とため息。もちろん誰にも会うことは無く(そんな時間に会う訳はないし、会えば細い道だから必ずわかる)、野生動物の鳴き声などに脅かされながらたしか、20:00過ぎにダムサイトの駐車場に到着。
帰宅して、道具の手入れをしながら、今日の反省をする。25キロ踏破プラス、崖の上り下りを何度したことやら。魚に思いを巡らせ、取り敢えず02:00に目覚ましをかけ就寝。
尾てい骨から背骨を通り脳天に…
翌日リベンジマッチに奥多摩湖へ。
明るくなる前にダムサイトに到着。最初の3キロは釣り禁止の為、暗い中懐中電灯を持ち山の中へ。薄明るくなった頃、昨日の岬に到着。岬のかなり手前から岬の先端へ1投目。いいサイズが喰ってきた!!
昨日の自分に対する怒りと憎しみ、そして呪いの言葉を総て忘れさせてくれる至福の一瞬! 最高の感動! バス君ありがとう! 山道を歩き、熱い汗で身体がびっしょりになるも、そこで得たのは尾てい骨から背骨を通って脳天に抜けるような快感! バスフィッシング最高!
さぁ、下あごをがっちり掴み、バスとの…自然との勝負にエピローグを。
と、岬の先端へ出て、1段下の波打ち際で俺の目に入ってきたのは綺麗に並んだ男物の革靴と女物のパンプス。全身から冷たい汗が噴き出る。尾てい骨から背骨を通って脳天に突き抜ける恐怖!
昨日の夕方、ここに靴は無かったぞ。
見張り番だから出会う確率も高い!?
数週間後、いつもよく話をしてくれる地元の旦那が言いました。
「お~っ、横島さん、釣れてるかい?」
「だめですわ~。見える魚が少ないっすよ!!」
「そんだけ湖見てれば違うものも見えないかい?」
「えっ?」
「この前、また、男の人が上がったってよ」
バブル景気とアタッシュケース
もう一つ。若い衆は知らないだろうバブルの時代。盛者必衰は必ず来るもので1991年バブル景気崩壊。俺26歳、仕事、魚釣り、スキ-…金は無いけれどとにかく遊びまくっていた頃です。たしかランパブ号に乗り換えるちょっと前だったと思うから1997年か1998年だったと思う。
やはり奥多摩湖。そして南岸。ダムサイトの駐車場から1番乗りで入山…先行者はいないはず。今日はばっちり釣ってやる!と意気込み、山道を歩く。天気は晴れて熱くなりそうな夏の暁の時間。気分が高揚する最高の瞬間!
鼻歌交じりで歩いていると…ス-ツを着てアタッシュケースを抱えた人が!
怖すぎて立ちすくんだが、すれ違いざまに、おはようございます…と声を掛けると蚊の鳴くような声で「おはようございます」と、あいさつをしてくれました。
でも、全身びっしょりに濡れていたよ、その人。
皆さん、彼が何をしてきたのかは想像が付きますよね。
バブル景気終盤、頑張ったけれど、どうにもならなくなった人たちのsuicide(自殺)が多かった時期で、たしか企業の早期希望退職者が1番多かった時期でもあったはず。景気が悪いと水辺でも恐ろしいもんを見るもんですね。はっきり言って心霊現象よりも、こっちの方が俺は怖い!
その他にも河口湖のシンナー女騒動とか青木ヶ原樹海関連、野犬騒動、本栖湖深夜の悲鳴…なんてのもあるが、それはまた次回、機会があったらやります。
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