サクラマスの太平洋南限と言われる神奈川県・相模川。かつてこの川には、数多くのサクラマス(ヤマメの降海型)が遡上する姿が見られたというが、降海型の魚が生存するのに適さない河川環境であることなど様々な要因が重なり、今は見る影もない。そんな相模川に、サクラマスを復活させようというプロジェクトが動き出している。相模川・中津川・小鮎川の三川合流にて行われたイベントの模様を、トラウトアングラーの木下進二朗さんにレポートしてもらった。

■トラウトアングラー
木下進二朗(きのした・しんじろう)

静岡県中部や伊豆地方の川をホームとするトラウトアングラー。
ジャクソンのフィールドテスターを務める。

画像1: 相模川に自然遡上するサクラマスを復活させる取り組みが進行中「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」イベントレポート


かつて多くサクラマスが遡上していた相模川

サクラマス。読者の皆さんはこの名前を聞けばすぐに連想される川があるのではないだろうか?そして、毎年この魚に出会うため、何百kmも車を走らせブランドリバーに足を運んでいることだろう。

ところが僕はというと、憧れはするけれど中々踏み込めないでいる。もし、この魚が僕の住む静岡県から日帰り圏内で狙うことができたのなら……。そんなうまい話があるハズもなく、毎年2月のサクラマス解禁の時期を迎えると悶々とした思いを抱いているのだ。

画像: サクラマス。最大で70cmほどにも成長する。冷水域を好み、川で孵化して海で育ち、再び産まれた川に戻ってくる降海型の魚。ヤマメは河川に残留するサクラマスの陸封型。

サクラマス。最大で70cmほどにも成長する。冷水域を好み、川で孵化して海で育ち、再び産まれた川に戻ってくる降海型の魚。ヤマメは河川に残留するサクラマスの陸封型。

さて、話は変わるが、ここ数年「catch&clean」というフィールド清掃活動に参加させていただいているのだが、昨年神奈川県・中津川で行われたこの活動の中で耳寄りな情報をキャッチした。同県相模川水系に“サクラマスを復活させよう”というプロジェクトが進行中とのことである。ここで気になるのは“復活”という言葉だ。

聞くところによると、かつて相模川には多くのサクラマスが遡上していたそうだ。遡上河川としては本州の南限と言われており、相模川に遡るマスはそういった意味でも非常に貴重な存在であることがすぐに理解できた。

今ではダムや取水堰堤が数多く建設され、その数は激減。釣りの対象にするのは難しくなってしまったそうだ。彼らのように、川と海を行き来する魚類の存在は河川環境を映し出すと云われるため、日常的に水道水や電気を使う僕達にとっては耳の痛いところでもある。

ゆかりある地で育ったヤマメを放流したい

さて、件のプロジェクトの発起人となったのは「ザンマイオリジナルハンドメイドルアーズ」の小平豊さん。イベント開催までの道のりは険しかったと語ってくれた。

画像: プロジェクトの発起人となったザンマイオリジナルハンドメイドルアーズの小平豊さん。「catch&clean」の活動に深く携わる人物だ。

プロジェクトの発起人となったザンマイオリジナルハンドメイドルアーズの小平豊さん。「catch&clean」の活動に深く携わる人物だ。

まず、皆さんご存知かもしれないが個人が勝手に川に魚を放流する事は、ゲリラ放流になってしまう。そのため、水系を管理している“漁協の承認”が必要になってくる。

さらに、放流をするからにはそのための魚。つまりサクラマスになるヤマメを調達しなければならない。それに伴い資金も必要なのは言うまでもない。

小平さん曰く、漁協へは何度も足を運び、理解を求めるために説明と協議を繰り返したそうだ。そして資金調達については、このプロジェクトに共感した「catch&clean」参加者や、地元ロコアングラーである木岡氏を始めとした有志が「丹沢の釣り人大反省会」と称したチャリティイベントを開催。

神奈川県大和市にお店を構える「くらげ亭」さんに協力してもらい、イベント当日の飲食代を寄付していただくという、この上ないご厚意を承ったのだそうだ。

残念ながら僕は参加することが出来なかったのだが、SNSには未来の相模川を映すかのような明るく楽しそうな写真が数多く掲げられていた。

できるだけ、元の環境に近いものを

画像2: 相模川に自然遡上するサクラマスを復活させる取り組みが進行中「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」イベントレポート

放流会を開催するに際し、放流する魚にもこだわった。山梨県水産試験場より発眼卵を購入し、同県忍野村の宮下養魚場に飼育を依頼。

忍野は相模川水源のひとつでもあり、少しでもゆかりのある地で育ったヤマメであることが重要だった。卵から孵ったヤマメは降海型となるように育てられたそうだ。

ご存知のようにサクラマスになる個体は、自然界で発育が遅れ一度ライバル争いに敗れたものが海へと下る。あえて飼育中のエサの量を抑え発育を遅らせることで、本能的に海に下ろうとするのだそうだ。その目安は8月の時点で、10cm未満の個体だという。

他にも大小様々な課題があったようなのだが、裏側のお話はこのぐらいにしておこう。

釣り人が成果を公表し本州南限のブランドリバーへ

去る2018年11月25日(日)。
84名もの参加者たちが、相模川・中津川・小鮎川の三つの川が合流する前の広場に集結した。

画像: 釣り人が成果を公表し本州南限のブランドリバーへ

この場所が選ばれたのには理由があり、釣り人だけでなく多くの人が利用する広場であれば、カワウが近づき難いという狙いもあるそうだ。それに、河口から15~16km地点にあるこの場所は野生を取り戻した個体が半日程で汽水域にたどり着けるため、ヤマメたちにとっても好都合のようだ。

画像3: 相模川に自然遡上するサクラマスを復活させる取り組みが進行中「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」イベントレポート
画像4: 相模川に自然遡上するサクラマスを復活させる取り組みが進行中「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」イベントレポート
画像5: 相模川に自然遡上するサクラマスを復活させる取り組みが進行中「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」イベントレポート
画像6: 相模川に自然遡上するサクラマスを復活させる取り組みが進行中「森と川と海を繋ぐサクラマス復活プロジェクト」イベントレポート

開始してから間もなく、バケツに移されたサクラマス候補生が参加者に配られた。用意されたのはおよそ3500尾のヤマメ。その内の100尾から油鰭をカットし、区別化を図った。さらにカットした鰭もDNA解析用サンプルとして保管。

昔から「可愛い子には旅をさせよ」というけれど、たった今バケツに受けたヤマメでさえも愛おしく思える。

近くで小平さんの声がしたので、この活動の発起人でもある氏に、唐突に今の心境を聞いてみた。

「あとは皆さんが成果(釣果)を見せて下さい。最終的に目指すのは“放流に頼らない自然回帰のサイクルを取り戻すこと”。それにはまだまだ課題は山積みで、釣り人・漁協・行政が連携することが必要なんです」

課題はあるかもしれないが、これだけたくさんの参加者が集まっているのだから、皆で真剣に取り組むことで、大きな一歩に繋がるはずだ。



いま必要なのは、サクラマスの活動に関するデータを集めること

画像: 神奈川県水産試験場専門研究員の勝呂尚之さん。当日は“ 野外講座 ”と題し「 丹沢のこと・相模川のこと 」について、講習会を開いていただいた。

神奈川県水産試験場専門研究員の勝呂尚之さん。当日は“野外講座”と題し「丹沢のこと・相模川のこと」について、講習会を開いていただいた。

その後行われた、神奈川県水産試験場の勝呂尚之さんのお話しの中でも具体的に挙げられたのは、サクラマスが戻って来た際の産卵場所の調査と整備は大きな課題とあった。

対策のひとつとして、大規模堰堤やダムのように魚道を設けることが困難な場合において、迂回するための水路の設置がビジョンにあるようだ。

そのためには、小平さんの言う通り僕たち釣り人がまずは成果を公表し、サクラマスの希少性と注目度の高さ、それにおける経済効果をアピールしたいところである。

いつか本州南限の天然サクラマスが遡上する日が来ることも夢ではない。

画像: イベント終了後には豚汁が振る舞われた。

イベント終了後には豚汁が振る舞われた。

画像: できるだけゴミを出さないよう、参加者たちは自前の箸と器を持参。「catc&clean」らしい試みである。

できるだけゴミを出さないよう、参加者たちは自前の箸と器を持参。「catc&clean」らしい試みである。

最後に、相模川のサクラマスを釣り上げることが出来た際は次のことを思い出して欲しい。放流当時は体長15㎝(40g)程度だったこと。過去の調査から、東は房総半島沖・三浦半島沖。西は紀伊半島沖までを旅して来た可能性があること。

釣り人はついついサイズに目がいってしまいがちだけど、彼等が乗り越えた苦難を想像しリスペクトしてあげて欲しい。

そして、釣果があれば、関係機関(相模川漁連・catch&clean公式ブログ・ザンマイHP)に連絡をいただけると研究材料になるそうなので、ぜひともご協力願いたい。

画像: いま必要なのは、サクラマスの活動に関するデータを集めること

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